今日こんなことに気付いた

バイクと映画と犬が好きで趣味で漫画も描く50男が日々気付いた記録

小説「活版印刷三日月堂」~忘れられたテクノロジーのこと

時間つぶしで入ったイオンモールの書店で買った日常癒し系短編集。物語展開は適度なスピード感があってサクサク読めた。

父を亡くして天涯孤独となった弓子は、川越市で昔祖父が営んでいた活版印刷所「三日月堂」を商店街の人たちに助けられながら再建する。さまざまな縁で三日月堂を訪れた客の視点で彼らの家族や友人、恋人との関係を見直す物語。弓子さんの事情も最後の4編目で語られる。

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活版印刷の技術が現存していることが意外だった。現行の印刷とは違う職人的な味わいが好まれるらしい。弓子さんが客に活版印刷うんちくを説明する場面から、昔はそこかしこにあった活版印刷所の様子を知ることができる。当時は納期に追われる3K職場だったらしい。

85年のアニメ映画「銀河鉄道の夜」の冒頭で、ジョバンニ少年が活版所で働いている場面を覚えている。字が刻印された金属片(字型)を棚から出して型枠に並べていく様子が緻密に描かれていた。

銀河鉄道の夜」と絡めた物語が本書の副題になっている「星たちの栞」の章だ。学生時代にジョバンニを演じたことがある高校教師と、彼女が顧問を務める文芸部の生徒が、それぞれに秘密を抱える友人のことで思い悩む。秘密を抱える友人はジョバンニの友人カムパネルラに例えられていて、よく練られたストーリーだと感じた。

日月堂シリーズは全6巻あるらしいけど、次巻を読み進めるかどうかは決めていない。僕の感性には登場人物は繊細で感傷的過ぎる。

本を読みながら技術革新とともに忘れられていくテクノロジーのことを思った。最近では自動車メーカーが、将来すべてのエンジン車を電気自動車に置き換えることを発表した。それ以前にもエンジンの燃料噴射システムは機械式キャブレターからコンピューター制御のFIに変わっている。過去のテクノロジーが劣っているのではない。むしろ何十年もかけて熟成された高度な技術だ。ただデジタル制御に較べると構造が複雑で、コスト面と環境面で勝てなかった。

僕は次のオートバイを買うなら中古のキャブレター式エンジン車と決めている。キャブレターならコンピューターと違って部品交換で修理ができる。腕時計は自動機械巻きが好きだし、マンガや小説を読むならタブレットより単行本がいい。フィルムカメラやカセットレコーダーも現存している。趣味の世界ではアナログテクノロジーは生き残る。

2021.5.9(日)曇り