23時に玄関チャイムを鳴らす者
少し前の出来事。
平日の夜、横須賀の単身アパートでユーチューブ動画を見ていたら夜の11時になった。今夜も無益な時間を過ごしてしまった。そろそろ就寝しようと思ったとき、玄関のチャイムが鳴り響いた。
一瞬思考が止まった。聞き間違い?いたずら?まさかNH○集金人か?
入居以来この部屋を訪ねて来た人は数えるほどしかいない。住所登録は静岡県の自宅にしているし、面倒なセールスや勧誘が来ないようにと玄関の表札もポストも空白にしている。ポストに毎月の光熱費の請求葉書が入っていたり、ときどき宅配業者が来るくらいだ。
固まって息をひそめていると、再度チャイムが鳴った。出ないわけにはいかない。冷静に考えてみて、同じアパートの住人あるいは近所の人が緊急の要件で訪ねてきた可能性が高い。
ドアののぞき窓から外を覗いたが何も見えない(思えばここから外を見たのは初めてだ)。「はい。」と小さく返事をしてゆっくりドアを開けた。誰もいない。
左を向くとコートを着た白い顔の女性と目が合った。彼女は「お父さん。」と言った。一瞬長女だと思った。よく見ると二女だった。姉妹なので顔は似ているが、二女のほうが少し背が低くていくぶんポッチャリしている。一瞬で状況が呑み込めた。
二女の説明では、東京で写真の展覧会を見た帰り、夜遅くなったから泊めてもらおうと思って来たが、連絡しようとしたらスマホのバッテリーが切れていたのだという(途中セブンイレブンで充電を頼んだら断られたそうだ)。
それにしてもよく夜道を迷わずに駅からアパートまで来れたと思う。二女は数カ月前に、横浜からの帰りが深夜になってここに泊まったことがある。そのときは僕が駅まで迎えに行って一度案内しただけだ。僕だったら一回歩いただけでは到底たどり着けなかっただろう。
ちなみに部屋番号が分からなかったので当てずっぽうでチャイムを押したそうだ。二女にはこういうぶっ飛んだところが昔からあった。
2023.1.5(木)晴れ