今日こんなことに気付いた

バイクと映画と犬が好きで趣味で漫画も描く50男が日々気付いた記録

「ひとの気持ちが聴こえたら」脳科学研究の現実がスゴイ

岡田斗司夫氏の切り抜きユーチューブ動画で本書が紹介されていた。最後まで視聴しないうちにアマゾンで購入することを決めた。

SF名作「アルジャーノンに花束を」を読んだのは多感な中学生時代だった。学校図書館でこの短編SFを読み終えたとき僕は涙ぐんでいたと思う。僕は周囲に打ち解けることが出来ずに疎外感・孤独感を感じていた。「アルジャーノンに花束を」はその後、日本で舞台化やドラマ化がされたが、僕は小説を読んだ当時の感動を大切にしたくてあえてこれらのエンタメは見ないようにしていた。(だいたい陽キャユースケ・サンタマリア氏が主人公チャーリーを演じるって何なんだよ?)

じゃなくて、本書「ひとの気持ちが聴こえたら」の話しでした。アスペルガー症候群で人の感情を読み取ることが出来ない著者が、経頭蓋磁気刺激(TMS)治療の研究プログラムに参加して、セッションの過程で一般人あるいはそれ以上の感受性を獲得する体験記だ。著者の体験はスピリチュアルな様相すら感じる。しかしTMS治療の効果は長続きしない。それは最初からプログラム参加者に説明されている。このプログラムはあくまで先進精神医療の基礎研究が目的なのだ。被験者が時系列で自身に起きた体験を語ることから、さながら現代版「アルジャーノンに花束を」というわけだ。はたして著者はこのプログラムを受けたことで何を得て何を失うのか。

著者のジョン・ロビンソンは子供の頃からアスペルガーによる孤独感と劣等感に苦しんできたが、けして哀れな境遇ではない。TMS研究者から「生まれながらのエンジニア」と称されるほど電子工学にずば抜けた才能を持ち、しかも知能が高いから自らの欠点である人の感情が読めない・場の空気を読めない・会話で相手を傷つけてしまうといったことを経験的に予防することで経営者として成功している。さらにアスペルガー作家として既に名が知られていて、患者や家族・精神科医を対象にした講演なども行っている。内面は劣等感に悩まされながらもはたから見れば成功者だ。

TMS治療というのは脳の特定の微小領域をターゲットに電磁信号を照射して脳細胞を活性化するイメージだろうか。実際はもっと繊細で複雑で、著者は自身がモルモットを志願するにあたって、事前に研究論文を読んでプログラム主催者と専門的な議論を重ねる。(なにせ知能が高いから)

TMS治療は脳への信号のインプットであるが、以前脳からの信号を拾って義足ロボットを操作する研究をTVで見たことがあるから、今は信号のアウトプットの研究も進んでいると思う。ちなみに本書が書かれた体験は2008年から2009年のことだ。

僕自身、小学生の頃から友達と遊ばずに一人で本ばかり読んでいる大人から見ると「困った生徒」だった。今なら軽度の自閉症アスペルガーの括りに入れられているだろう。家庭訪問で担任教師が僕のことで酷いことを言ったと母が憤ったことがあった。母は「先生はああ言ったけど、私はあなたの味方だからね」と言いたかったのだろうけど、僕は好きだった担任教師からそういうふうに見られていたことを知ってショックを受けた。

本書を読みながら自分の子供時代を思い出して少し悲しい気持ちになった。そして今の自分は自分が思っているほどまともな大人なんだろうかと不安になった。(多少の変人である自覚はある)自称サイコパス岡田斗司夫氏も自身の体験を重ねたのではなかろうか。そして僕の今の人生は「正しい選択をしてきた結果」といえるだろうか?

2022.7.18(月)晴れ